設立趣意書

設立発起人一同

 初年次教育は1970年代後半から80年代前半にかけて,アメリカの多くの高等教育機関で導入され,学生の中退率抑制や学生の”成功”に有効な教育プログラムであることが評価され,現在では世界20カ国以上に広がっています。その背景として,高等教育のユニバーサル化の進行に伴い,多様な学生が高等教育に進学するようになる一方で,卒業時の質保証が求められるようになり,入学した学生を大学教育に適応させ,中退などの挫折を防ぎ,成功に水路づける上で初年次教育が効果的であるという期待や評価が高まっているからです。

 こうした高等教育を取り巻く環境変化は,日本の高等教育機関にも及び,近年,学力・学習目的・学習動機・学習習慣の多様な学生を受け入れるようになってきています。本年9月に出された,中教審大学分科会制度・教育部会「学士課程教育の在り方に関する小委員会」による『学士課程教育の再構築に向けて』(審議経過報告)においても,高等学校から大学への円滑な移行に果たす初年次教育の重要性が指摘され,学士課程教育の中に明確に位置づけることが提言されています。

 これらの国内外の諸状況の変化を背景に,日本でも初年次教育は急速な拡がりを見せ始め,研究者による研究の成果や担当教職員による効果的なプログラムの構築が増加しています。しかし,まだまだ日本での実践や研究実績の蓄積とそれらの共有は十分とはいえず,実践的な教育内容や効果的な教育方法の開発や改善に加え,初年次教育の教育効果の測定や理論的な説明をはかり,初年次教育のもつ重要性を日本の高等教育界に定着させていく必要が高まっています。また,国際的な初年次教育関係団体・学会との情報交換・交流も推進していく時期に至っております。

 このような趣旨のもとに,私たちは,初年次教育学会の設立を企図いたしました。

 本学会においては,初年次教育の理論,教育内容,教育方法,評価法といった初年次教育に直結する内容はもとより,青年期の適応,高校から大学への移行,専門教育との接続といった「移行」に関する研究,キャリア教育,サービスラーニング等の初年次教育と隣接する教育プログラムも対象としていくことを考えています。これらの対象について,理論的研究や調査研究をはじめとして,各学問領域や各教育機関における初年次教育の実践・事例研究,海外における初年次教育の研究・実践動向等の紹介などを通じて,高等教育関係者の情報交換と研究・実践交流の場として,そしてプログラムの開発に関心を寄せる人々のネットワークとして,研究と実践の両面での拡がりと充実に貢献することをめざしています。
初年次教育のもつ重要性の社会的認知を促し,広く日本の高等教育の質的向上に寄与するためには,学会による継続的な調査研究や普及のための活動が不可欠でしょう。ここに,私たち発起人一同は,初年次教育に関わる関係者の方々に本学会へのご参加を,広くご案内する次第です。ネットワークのさらなる広がりが,日本における初年次教育の新たな発展につながることを信じてやみません。

平成十九年十二月吉日

発起人:

 足立 寛(立教大学)  岩井 洋(関西国際大学)  沖 清豪(早稲田大学)
 小原芳明(玉川大学)  川島啓二(国立教育政策研究所)  川嶋太津夫(神戸大学)
 菊池重雄(玉川大学)  笹金光徳(高千穂大学)  杉谷祐美子(青山学院大学)
 舘 昭(桜美林大学)  智原哲郎(大阪女学院大学)  中村博幸(京都文教大学)
 濱名 篤(関西国際大学)  藤田哲也(法政大学)  藤本元啓(金沢工業大学)
 安永 悟(久留米大学)  山田礼子(同志社大学)=代表  山本 泰(東京大学)
 横山千晶(慶應義塾大学)  吉田智行(国際基督教大学)